Cambodia · Culture

プチュム・バン ― カンボジアの祖先供養と、寺院への食の布施

2026年10月10日

プチュム・バンとは

プチュム・バン(Pchum Ben)は、カンボジアで仏教徒が亡くなった家族や先祖をしのぶ大きな祭りです。Hello Angkor は、名称をおおよそ「集まり(プチュム)」と「米団子(バン)」の意味と説明しています。祭りの中心には、寺院で僧侶に食べ物を差し上げ、その功徳を先祖に振り向けるという考え方があります。

IntoCambodia.org によると、祭りはクメール暦の月プチュム・バン(Phôtrôbât)の欠け日の1日から15日までの15日間とされます。1〜14日目は「カン・バン」と呼ばれ、人々が寺院で功徳を積み、戒を守り、境内を掃除し、僧侶に仕える期間です。15日目が「ボン・プチュム」と呼ばれる中心の日で、故郷に帰って家族が集まり、朝に僧侶や先祖の祭壇へ食べ物を供えるとされます。供養の対象は7世代前までの亡くなった親族と説明されています。

同サイトは、碑文に「スラット」「サラタカル」といった名前で似た行事が見え、その一つはヤショーヴァルマン1世(889〜910年)と結びつけられるとも伝えています。仏教の枠組みと、より古くからの習わしが重なって今の形になったとされています。

葉と花で作られた、プチュム・バンの日の供え物用の容器(カントン)
葉と花で作られた供え物の容器「カントン」。プチュム・バンの日のものと説明されている。 写真: PhotographerCambodia / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

開催時期と日付の考え方

プチュム・バンの日付はクメール暦(太陰暦)で決まるため、西暦では年によって動きます。Hello Angkor は、9月か10月ごろにあたるとしていますが、特定の年の日付は載せていません。

確認できた範囲では、カンボジア政府は2026年の公休日として、王立プチュム・バン祭を10月10日から12日までの3日間と定めています(Andersen Cambodia が紹介する2025年9月18日付の政令 Sub-Decree No. 167)。ただし、これは祝日の日付であり、寺院での行事そのものは15日間にわたります。旅行などで日程を合わせる場合は、その年の公式な祝日の発表や、訪ねる寺院の案内を確認してください。

米を中心にした食の布施

この祭りで、食べ物は中心的な役割をもちます。

  • 僧侶の鉢に米を入れる:プノンペン近郊の寺院を取材した The Cambodia Daily の記事(2015年)では、銀の鉢が並ぶ机の前で、参拝者が炊いた米を鉢に一さじずつ入れ、そばの皿に少額の喜捨を置く様子が描かれています。この行いは「ダック・バット(僧の鉢に米を入れる)」と呼ばれると、行事を手伝う高齢の男性が語っています。参拝者の一人は、供え物の功徳が亡くなった人に届き、その苦しみを早く終えさせると考えていると述べています。
  • 米団子とお菓子類:IntoCambodia.org は、供物として米のご飯、円錐状の果物や菓子の供え、もち米を使った菓子、ごま、ココナッツ、果物などを挙げています。Hello Angkor は、カン・バンの期間にもち米の菓子が供えられるとも記しています。
  • 米団子を境内にまく:The Cambodia Daily によれば、最初の14日間、夜明け前に寺の本堂の外の地面へ米団子を投げる風習があり、飢えた霊に食べさせるためと説明されています。

米がこれほど中心にある理由について、同記事の中で僧侶は、カンボジアの人々が一日に三回、米の食事をとるからだと語っています。

僧侶への施しと、仏教の考え方

Hello Angkor は、この祭りが雨安居(ヴァッサ、雨季の3か月の修行期間)の時期に重なると説明しています。僧侶が寺にこもって外に出ることが少ないため、在家の人々が寺院に食べ物を届ける大切な機会になるというのです。

The Cambodia Daily の記事では、カンボジア仏教を研究するエリック・デイヴィス氏が、律(ヴィナヤ)によって僧侶が耕作を禁じられており、食べ物を作るのは在家の人々で、僧侶がそれを受けることで施しが功徳になる、と説明しています。IntoCambodia.org は、僧侶は正午以降は食事をしないため、供える食べ物は午前11時ごろまでに寺へ持参するよう案内しています。

Hello Angkor によると、先祖への食の供え方には二つの理解があります。一つは「正統的」な見方で、生きている僧侶に食べ物を差し上げ、そこで生まれる功徳を亡き人に振り向けるというもの。もう一つは「民間的」な見方で、亡き人に直接供えるというもので、米団子を投げたり、田畑に米をまいたりする習わしがあたります。なお、霊の世界や功徳の移り方についての説明は、地域や人によって異なるとされます。

カンボジアの食は必ずしも菜食ではない

ここで誤解を避けておきたい点があります。僧侶に食事を施すことや、仏教の祭りで食べ物を供えることは、料理が菜食であることを意味しません。

  • 日常の食事:Wikipedia の Cambodian cuisine の項目は、米と淡水魚がカンボジアの食生活の二つの大きな柱だとしています。魚は焼く、揚げる、干すほか、発酵させたプラホック(魚の発酵ペースト)や魚醤にもなり、プラホックはほとんどのクメール料理の味付けに使われるとされます。肉(牛・豚・鶏)の消費は1980年代以降に大きく増えたとされ、農村では肉は控えめに使われ、菜食のカレーはあまり一般的でないとも書かれています。
  • 僧侶の食事:上座部仏教の経典の一つ「ジーヴァカ経」には、自分のために殺されたと見聞きしたり疑ったりする場合を除いて、肉を食べてよいという趣旨の教えがあります。上座部の僧侶は、托鉢で供されたものを受けるのが一般的で、菜食が必須の戒めではないと説明されています(Buddhist vegetarianism、補助的な出典)。ただし、カンボジアの個々の寺院で実際に何が供されているかを示す資料は、今回確認できませんでした。

つまり、日本の精進料理のように、肉や魚を使わない料理体系が寺院の食事に整っている、とは本稿の出典からは言えません。カンボジアの食は、米を軸に魚や肉も日常的に使う食文化であり、その上で、寺院に食を捧げる行いが信仰の大切な部分になっている、と整理できます。

訪れる人の心得

Hello Angkor は、寺院を訪れる際の基本的なマナーとして、肩と膝を覆う服装、本堂に入る前に靴を脱ぐこと、静かに振る舞うこと、儀式や僧侶、参拝者を撮影するときは許可を得ることを挙げています。祭りの期間中は、帰省する人が多く、厳かな行事が行われます。招かれて参加する場合は、現地の案内に従うのが無難です。

菜食を希望する旅行者は、祭りの供物や寺院の食事、一般の料理について、肉や魚、プラホックなどの発酵魚が使われていないかを、その場で具体的に尋ねてください。「野菜の料理」という名前だけで魚の調味料が入っていないとは言い切れません。

本稿の限界

  • 祭りの理解(7世代、霊への供物、功徳の移り方など)は、紹介サイトや報道に基づく部分が多く、地域や宗派で違いがあるとされます。
  • 僧侶の食事の中身や菜食をめぐる実際の運用は、カンボジアの個別の寺院や僧侶の資料を確認できていません。
  • 引用した Cambodia Daily の取材は2015年のものです。

トップ画像: プノンペンのワット・プノムの本堂。 写真: Marcin Konsek / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

出典