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シンガポールの素食 ― 華人の菜食の伝統と、ホーカーで出会う菜食メニュー

華人の菜食のルーツ
シンガポールで「素食(スーシー)」と呼ばれる華人の菜食は、中国から伝わった大乗仏教や道教の「殺生を避ける」考え方と結びついた習慣だとされています。シンガポール華族文化センターの文化情報サイト「Culturepaedia」によると、旧暦の1日と15日に肉を控える習慣は、中国では周の時代からすでに一般的だったそうです。大乗仏教の伝統ではニラやニンニクなどの「五辛」を避けることがある、とも説明されています。台湾など他地域の菜食との違いに興味がある方は、台湾の素食のタイプも参考になります。
国立図書館委員会(NLB)の雑誌『BiblioAsia』(2022年)は、出家した尼僧、在家の信者、そして「斎姑(ザイグー)」と呼ばれる菜食の女性たちが、シンガポールの菜食文化の担い手だったと紹介しています。Culturepaedia によれば、斎姑は「斎堂」と呼ばれる共同の施設で暮らし、肉や酒を断って修行や祈りの日々を送っていました。
寺院から食堂、ホーカーへ
Culturepaedia によると、20世紀初めには、いくつかの斎堂が活動資金を得るために、米や麺、菜食の月餅などを一般の人に販売するようになりました。小麦のグルテン(麺筋)で作る「もどき肉」も、寺の行事食の中で工夫されてきたとされます。
BiblioAsia によると、華人の菜食レストランが登場したのは1940年代で、その多くは仏教徒の女性たちが興したものでした。1946年創業の老舗は2010年まで営業し、1953年創業の別の店は庶民的な価格を売りにして、旧暦の1日と15日や華人の祝祭日に混み合ったそうです(2017年閉店)。さらに Culturepaedia は、1970年代後半から無料の菜食の食事を出す団体があったこと、1998年からはウェーサーカ(仏誕節)に無料の菜食を提供する寺院があることも記しています。
ホーカー(屋台街)への広がりについて、Culturepaedia は1988年の新聞報道(ストレーツ・タイムズ)を引き、当時およそ160軒の華人菜食の屋台があったと伝えています。ただし公式の統計ではなく、あくまで推計です。BiblioAsia によると、現在はほとんどのホーカーセンターやフードコートに菜食の店が少なくとも1軒はあるといいます。

「エコノミー」ビーフンなど日常の菜食
シンガポールの朝食や昼食の定番に「エコノミー・ビーフン」があります。Eatbook などの食のメディアによると、炒めたビーフンを土台に、野菜やおかずを好きに選んで載せていく形が一般的で、手頃な価格が魅力とされます。菜食の店では、キャベツや豆類の炒め物に、もどき肉(もどき叉焼やもどきガチョウなど)が並ぶ例が紹介されています。
菜食ビーフンは、仏教徒の女性が営んだ菜食レストランに由来すると「いわれる」と、Wikipedia は BiblioAsia を引いて述べています。起源を断定できる資料は見つけられなかったため、ここでは「そう伝えられている」とだけ記しておきます。なお、宗教的な背景をもつ素食は、卵や乳製品、五辛の扱いなど、現代のヴィーガンとは考え方が異なる面があります。違いについては精進料理とヴィーガンの違いの記事もどうぞ。旧暦の1日・15日の菜食という習慣は、ベトナムの旧暦1日・15日の菜食にも通じる点があります。

多民族社会の菜食
シンガポールの菜食は華人だけのものではありません。国家遺産庁(NHB)の Roots.gov.sg によると、菜食はインド系の食文化の中で大きな位置を占めており、ポンガルや結婚式などの祝い事でも菜食の料理が欠かせないとされます。卵を避けるインド系の菜食者も多く、菓子には牛乳やギー(精製バター)が使われるとも説明されています。BiblioAsia は、インド系の菜食レストランであるアナンダ・バヴァンが1924年に開業し、国内で最も古い菜食の店の一つと考えられていると紹介しています。
異なる信仰の人々が同じ食堂を利用した例もあります。Culturepaedia は、1980年の新聞記事を引き、前述の庶民的な菜食レストランには、金曜日に肉を控えるキリスト教徒や、寺院での礼拝のあとに菜食を求めるヒンドゥー教徒も訪れていたと述べています。また Roots.gov.sg は、ウェーサーカの日に菜食の食事をとることが一般的な行いの一つだと記し、Culturepaedia によれば九皇大帝の祭りの参加者は少なくとも10日間の菜食をするそうです。別の地域の菜食祭りについては、プーケットのベジタリアン・フェスティバルも合わせてどうぞ。
今回の調査では、公的機関による「ミートフリー」の取り組みについて、確認できる出典を見つけられませんでした。そのため、ここでは触れていません。
トップ画像: シンガポールのホーカーセンター、マクスウェル・フードセンターの外観。 写真: Aaaatu / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
出典
- From temples to shopping malls: A century of Chinese vegetarian food in Singapore(Culturepaedia / シンガポール華族文化センター)
- How Chinese Buddhist Women Shaped the Food Landscape in Singapore(BiblioAsia / NLB)
- Indian Cuisine in Singapore(Roots.gov.sg / 国家遺産庁)
- Vesak Day(Roots.gov.sg / 国家遺産庁)
- 14 Affordable Economic Bee Hoon Stalls In Singapore(Eatbook.sg)
- Vegetarian bee hoon(Wikipedia)
