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香港の素食(齋)文化 ― 寺院の齋菜と「齋」「素」「純素」の読み方

2026年10月10日

香港の仏教と「齋」の食事

香港の素食(そしょく、菜食)には、仏教の寺院の食事と、街の食堂やレストランで出される菜食の両方があります。このうち、仏教の寺院で出される精進の料理は、中国語圏で「齋菜(ざいさい)」と呼ばれます。香港政府の年鑑(2015年版)は、香港の仏教徒を約100万人、仏教寺院・道場を400以上と紹介しています。年鑑は、仏教の主な祭りとして釈迦の誕生日にあたる旧暦4月8日(仏誕)を挙げ、この日は公共の祝日で、信徒が寺院に参拝するとしています。ただし、この数字は年鑑の2015年版前後のもので、現在とは異なる可能性があります。

この記事では、公式サイトなどで確認できた事実を中心に、香港の齋の文化を整理します。店の推薦やランキングは行いません。また、仏教の寺院の菜食と、現代のヴィーガンを同一視することも、肉食と菜食、あるいは宗教や文化の優劣を論じることもしません。日本の精進料理との違いは精進料理とヴィーガンの違いの記事も参考にしてください。

寶蓮禪寺(宝蓮寺)の齋堂

寶蓮禪寺は大嶼山(ランタオ島)の昂坪にある寺院で、天壇大佛(ビッグ・ブッダ)で知られています。寺院の公式サイトには「齋廚(齋堂)」のページがあり、次のように説明されています。

  • 齋堂では、寶蓮禪寺の素齋(菜食の料理)が提供される。
  • 献立はその日の新鮮な、季節の材料で作られ、時期によって変わる。大まかには、湯水(スープ)、炸物(揚げ物)、菜蔬(野菜料理)、飯類で構成される。
  • 食べ残しを減らすため、各テーブルの人数に応じて料理の量を決める。
  • 場所は大雄寶殿(本堂)の左手(本堂に向かって)にある。
  • 営業時間は午前11時30分から午後4時30分(公式の訪問案内にも同じ時間が載っている)。
  • 団体で利用する場合は、公式ページに載っている電話番号に問い合わせる。
  • 齋堂の隣には小食部があり、公式ページは、十数種類の軽食(菓子、麺類、塩味の点心など)を扱い、豆腐花(豆腐のデザート)は毎日昂坪で作るとしています。

公式の訪問案内によれば、寺院は午前9時から午後6時、天壇大佛は午前10時から午後5時30分に開いています。ただし、これは確認した時点の記載で、時間や運用は変わる可能性があります。食事券の買い方や料金については、確認した公式ページには記載がありませんでした。第三者のブログなどには価格の記載がありますが、日付が不明で信頼性が確かめられないため、ここでは載せません。訪問の前に、寺院の公式サイトや現地の案内で確認してください。

なお、寺院の食事がどんな材料や調味料を使うかは、寺院ごとに決められています。第三者の旅行記事の中には、一部のデザートに動物性の油脂が使われている可能性に触れたものもありますが、公式な根拠が確認できなかったため、本文では断定しません。厳密に動物性を避けたい人は、現地で直接尋ねるのがよいでしょう。

寶蓮禪寺の齋堂(Vegetarian Restaurant)付近の屋外席
寶蓮禪寺の齋堂(Vegetarian Restaurant)付近の様子。 写真: Muduchaorj HARIMO / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

旧暦の1日・15日と仏誕

中国語圏の仏教徒の中には、旧暦の毎月1日と15日(初一・十五)に菜食をとる人がいるとされます。英語版Wikipediaも、旧暦の1日と15日に菜食をとる仏教徒がいることや、大晦日、聖人や祖先にまつわる日にも同様の習慣があることを紹介しています。ただし、香港でこの習慣を守る人がどれくらいいるかを示した統計や公式資料は、今回の調査では見つかりませんでした。地域や家庭、個人によって違うと考えるのが安全です。

仏誕(旧暦4月8日)は、香港の公共の祝日です。祝日になった時期については、Time Outは1999年から、別の資料は1997〜98年ごろとしており、資料によって異なるため、ここでは1990年代末ごろとされる、と書くにとどめます。香港政府観光局のサイト(Discover Hong Kong)の紹介によれば、寶蓮寺では毎年、旧暦4月2日から8日にかけて浴仏(灌仏)の法会が行われ、大雄寶殿で参加できます。Time Outは、寶蓮寺や志蓮淨苑などで浴仏が行われると紹介し、この日に精進的な食事をとる人もいると述べています。

香港の寺院で、旧暦の1日・15日や仏誕に、実際にどのような齋菜が出るのかは、確認できた公式資料ではわかりませんでした。行事の日は混雑したり、特別な運営になったりすることがあるため、訪問する場合は寺院の最新の告知を確認してください。

「齋」と「素」の読み方

漢字の「齋」は、もともと宗教的な意味での「斎戒」、つまり心身を整えるための節制を指す言葉でもあります。そこから、仏教の寺院の菜食を「齋菜」「素齋」と呼ぶ使い方が広がったとされます。一方、「素」は肉や魚を使わない、という意味で、より一般的に使われます。看板や菜単(メニュー)で、「齋」と「素」がどのように使い分けられているかを定めた公的な基準は、今回の調査では確認できませんでした。

仏教、特に中国の大乗仏教の伝統では、肉や魚に加えて、五葷(ごくん、五辛とも)と呼ばれる強い香りの野菜を避ける考え方があります。Wikipediaは、中国などの大乗仏教の出家者が、にんにくなど5種の強い香りの植物を避けるとしています。五つの具体的な名前は、資料や宗派によって少しずつ異なります。ネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、タマネギを挙げる説明が多く見られますが、断定せず、「そのように説明されることが多い」と受け止めておくのが安全です。また、同じ資料は、卵は伝統的に菜食とはみなされないとも述べています。

こうした伝統から、寺院の流れをくむ「齋」の料理は、卵や五葷を使わないものを指すことが多いと想像されるかもしれません。しかし、実際の運用は店ごとに違います。たとえば、ある航空会社の記事は、香港の寺院系の素食レストランの料理について、卵や乳製品は使うが、五辛は避けると紹介しています。つまり、「齋」の字が付いているからといって、卵や乳製品が必ず使われていないとは言い切れないということです。

「素」と「純素」の違いと、表示の確認

香港で「純素」という言葉を見かけたら、卵や乳製品を含めて動物性の食品を使わない、という意味で使われていることが多いと考えられます。ただし、「純素」をどう定義するか、そして「齋」「素」「純素」を店がどう使い分けるかについて、香港政府などの統一基準は、今回の調査では確認できませんでした。

参考までに、台湾では包装食品の菜食表示について、国の規定があります。台湾の衛生福利部は、包装食品が菜食を名乗る場合、「全素または純素」「蛋素(卵を含む)」「奶素(乳製品を含む)」「奶蛋素(乳と卵を含む)」「植物五辛素(五辛を含む)」のいずれかを表示するよう定めていると説明し、この規定は2009年7月1日に施行されたとしています。これは台湾の包装食品の制度で、香港にそのまま当てはまるものではありません。ただ、「菜食」といっても卵、乳、五辛の扱いで種類が分かれることを知る手がかりになります。

こうした事情から、看板や菜単の言葉だけで内容を判断するのは難しい場合があります。次の点を目安にするとよいでしょう。

  • 卵・乳製品を避けたいか、五辛(ネギ、ニンニクなど)も避けたいか、避けたいものをはっきり決めておく。
  • 注文の前に、菜単の注記や、店員への質問で確認する。メニューに卵や乳製品の有無が書かれている店もあるとされる。
  • 肉に似せた料理(もどき料理)は、小麦グルテンや大豆などから作られることが多いとされる。見た目や名前が肉に似ていても、それだけで材料はわからないので、必要なら尋ねる。
  • 調味料、だし、揚げ油などに動物性のものが使われていないかが気になる場合は、そのことも伝える。
香港の中華系素食店のテイクアウトカウンター
香港の中華系素食レストランのテイクアウトカウンター。 写真: Mk2010 / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

旅行者のための確認ポイント

香港で齋や素食に触れたい旅行者は、まず「どんな基準の菜食を求めるか」を決め、それが店の基準と合うかを確認することが出発点になります。寺院の齋堂は、宗教施設が運営する食事であり、一般のレストランとは運営の考え方が違います。営業時間、利用の仕方、混雑する日は、寺院の公式案内で最新のものを確認してください。

仏教の寺院の菜食は、信仰の背景をもつ食事で、現代のヴィーガンや健康目的の菜食とは成り立ちが違います。この記事は、どれが優れているかを述べるものではありません。栄養や健康への効果についても、この記事では判断しません。持病やアレルギーのある人は、専門家や店の情報に従ってください。

トップ画像: 香港・大嶼山の昂坪から望む天壇大佛。 写真: edwin11_79 (Flickr) / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

出典