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精進料理の「五味・五色・五法」とは ― 資料で見る考え方と表記の違い

2026年10月9日

精進料理の献立の考え方として、「五味・五色・五法」という三つ組が語られることがあります。ここでは、公的な解説や曹洞宗の公式サイトなどを読み比べ、何を指すのか、資料によってどこが違うのかを整理します。精進料理そのものについては精進料理とはもあわせてご覧ください。

三つ組が指すもの

曹洞宗の公式サイト「曹洞禅ネット」は、五味を苦味・酸味・甘味・辛味・塩味、五法を生・煮る・焼く・揚げる・蒸す、五色を青・黄・赤・白・黒と挙げています。同サイトによると、この考え方のルーツには中国の陰陽五行思想の影響があるそうです。また、対象は精進料理だけにとどまらず、和食という広い範囲で知られているとも述べられています。

献立づくりでの使い方も紹介されています。味の偏りを避ける例として、甘い味つけの料理が続くときは苦味や辛味のある一品を添えること、調理法では煮るだけに寄らず焼く・揚げるも取り入れること、さらに食材の色合いの調和にも目を向けることが挙げられています。

資料によって異なる点

  • 五味の「辛」と「うま味」: 曹洞禅ネットの五味には辛味があり、うま味は入っていません。一方、農林水産省の和食解説は甘味・酸味・塩味・苦味・うま味、観光庁の多言語解説データベースの精進料理の項も甘・酸・塩・苦・旨味としており、辛味は挙げていません。
  • 五色の「青」と「緑」: 農林水産省は赤・黄・青(緑)・白・黒とし、青に緑を併記しています。観光庁のデータベースでは緑・黄・赤・黒・白と書かれています。
  • 「五法」の意味: 曹洞禅ネットと農林水産省は、五法を調理法としています。農林水産省は、それぞれ刺身・煮物・焼き物・蒸し物・揚げ物に対応するとも述べています。ところが観光庁のデータベース(中海・宍道湖圏域の解説)は、五色と五味を一つずつ含める決まりのほうを「五法」と呼んでいます。

つまり「五法」とだけ書かれていても、調理法の話なのか、色と味の決まりの話なのかは文脈で確かめる必要があります。

杉の巨木と石灯籠が並ぶ永平寺の参道
曹洞宗の大本山のひとつ、福井県の永平寺。 写真: 雷太 / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

禅の考え方との関係

曹洞禅ネットは、道元の『典座教訓』にある「六味」と「三徳」を紹介しています。三徳は、軽軟(口当たりがよいこと)、浄潔(清らかに作ること)、如法作(定めに沿って調えること)で、六つ目の味として素材そのものの持ち味である「淡味」を重んじると説明されます。観光庁のデータベース(永平寺町の解説)にも、苦・酸・甘・塩・淡・辛の六味と三徳の記述があります。ただし、五味・五色・五法という三つ組が道元の著作に由来するのかどうかは、今回確認した資料には書かれていません。『典座教訓』については典座教訓と五観の偈の記事も参照してください。

陰陽五行との関係は、曹洞禅ネットが「影響を受けた」と述べる範囲で確認できます。五色については、辞典(コトバンク所収の精選版日本国語大辞典)が、中国古代の五行説で青・黄・赤・白・黒を指し、仏教でもこの五色を五正色と呼んで五根や五智、五仏などに配すると解説しています。観光庁のデータベース(秩父の解説)にも、精進料理の五色は五智如来を象徴するという記述があります。ただし、これらがどう結びついて精進料理の献立の考え方になったのかまでは、確認した資料では説明されていません。

さまざまな色の野菜や木の実を盛り付けた精進料理の前菜
高野山の福智院で出された精進料理の前菜。 写真: Jpatokal / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

現代の和食・彩りとの関係

農林水産省は、五法・五味・五色を和食の基本として紹介しています。五色は盛り付けの工夫とも結びつけられ、器の色や添える葉・花も含めて見た目の楽しさを増すものとされます。この解説は精進料理には触れていませんが、曹洞禅ネットが和食全般に通じる考え方と述べている点とは重なります。なお、うま味の出し方については精進だしの記事で触れています。

一方で、現代の家庭や店の献立でこの三つ組がどこまで意識されているかは、今回の資料からは分かりません。また、J-STAGEで読める論文の抄録(徳野崇行、2016年)によれば、「精進料理」という語自体が菜食と粗食の両方の意味を含んで使われてきた歴史があり、近代以降は「日本料理の源流」とも位置づけられたといいます。このため、五味・五色・五法は、固定した規則というより、資料ごとに表記の揺れがある一つの考え方として読むのが無理のない捉え方といえそうです。

トップ画像: 朱塗りの器に盛られた春の精進料理。 写真: サフィル / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

出典