Indonesia · Food
インドネシアのテンペと豆腐 ― ジャワ島の日常を支える大豆食品

テンペとは何か
テンペ(tempe)は、加熱した大豆にテンペ菌(クモノスカビの仲間、Rhizopus 属)を付けて発酵させ、白い菌糸で豆どうしを結びつけて四角く固めた食品です。「tempe」という語は、大豆以外の豆や搾りかすで作る似た食品を含む総称として使われることもあります。伝統的な作り方では、茹でた大豆をバナナの葉などで包み、前回の発酵物を種として加える方法が記録されています。

起源として語られること
起源はジャワ島、なかでも中部か東部とする見方が有力です。研究者のシャートレフとアオヤギ(Shurtleff & Aoyagi)は、1800年より前に生まれたことはほぼ確実で、千年以上前の可能性もあるとしています。インドネシアの研究者には2000年以上前と推測する人もいますが、確かな史料はなく、年代は出典によって幅があります。中国の大豆麹の製法がジャワに伝わって変化したという説もありますが、これも推測の域を出ません。
名前が確認できる最古の文献とされるのは、19世紀初頭に成立したとされるジャワの韻文『スラット・チェンティニ(Serat Centhini)』で、宴の料理の一つとして挙がっています。物語の舞台は17世紀前半ですが、その時代の食べ物だと断定はできません。1875年のジャワ語・オランダ語辞典にも項目があります。
庶民の日常食だったため、植民地期から独立後しばらくは「格下」と見られ、初代大統領スカルノが「テンペの国民になるな」と戒めたとも記されています。この見方が変わり始めたのは1960年代半ばとされます。さらに2025年3月、インドネシア文化省はテンペをユネスコ無形文化遺産の代表一覧表に提案しました。ユネスコのサイトでは2026年の審査対象として掲載され、「未登録」と表示されています。執筆時点で登録が決まったことは確認できていません。
豆腐(tahu)とテンペの食べ方
豆腐はインドネシア語で tahu(タフ)といい、華人移民が製法を伝えたとされます。ジャカルタ・ポスト紙によると、東ジャワのケディリは「豆腐の町」と呼ばれ、20世紀初頭に華人が豆腐づくりを始めた歴史があり、黄色く仕上げる tahu takwa が知られています。同紙の2009年の記事は、業界団体の推計として、国内の大豆の約5割がテンペ、約4割が豆腐に使われるとも伝えています。
食べ方は多彩です。1970年代末のジャワでの聞き取り調査では、味付けして揚げる tempe goreng(テンペ・ゴレン)、薄切りを揚げた keripik tempe(クリピック・テンペ、チップス)、野菜とココナッツミルクで煮る sayur lodeh(サユール・ロデ)、ココナッツミルクを使ったピリ辛の炒め煮 sambal goreng tempe などがよく知られた料理として挙がりました。ほかに、サンバル(sambal、唐辛子の薬味)を添える、ココナッツミルクや醤油で煮るといった食べ方も報じられています。

旅行者が知っておきたいこと
テンペそのものは大豆と菌で作る食品ですが、料理は別です。インドネシア観光省の紹介ページによると、東ジャワ・バニュワンギの郷土料理ナシ・トゥンポン(nasi tempong)は、ご飯にテンペや豆腐、野菜のほか鶏の唐揚げや塩漬けの魚が添えられ、名物のサンバルにはえびのペースト(terasi、テラシ)が使われます。このように、テンペ料理でも調味料や付け合わせに動物性のものが含まれることがあります。
旅行者向けガイドは、卵、オイスターソース、えびのペーストなどに注意し、「tanpa daging, tanpa ikan, tanpa udang(肉なし、魚なし、えびなし)」と伝える方法を紹介しています。ただし、これで確実に避けられるとは限らないため、注文のたびに確認するのが無難です。
宗教については、住民登録に基づく統計(2021年末)でイスラム教徒が約87%、ヒンドゥー教徒が約1.7%とされます。ハラール(イスラム法で許される食)の基準は主に豚肉とアルコールに関わるもので、卵や乳製品を含む料理もあるため、ハラールだからヴィーガンとは限りません。菜食の考え方の違いは精進料理とヴィーガンの違いで、豆腐を使う精進料理は豆腐・湯葉・麩の精進料理で紹介しています。
トップ画像: ジャカルタ(インドネシア)の市場で売られる、葉に包まれた生のテンペ。 写真: Sakurai Midori / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
出典
- Shurtleff & Aoyagi, History of Tempeh (Soyinfo Center, 2007; PDF hosted by Gadjah Mada University)
- UNESCO Intangible Cultural Heritage: Nomination – Culture of Tempe (Indonesia)
- ANTARA Jatim: Indonesia ajukan tempe, jaranan dan teater Mak Yong ke UNESCO (30 Mar 2025)
- The Jakarta Post: Making the most of a national treat (27 Jul 2009)
- The Jakarta Post: Kediri’s Bah Kacung – tofu tradition matters (21 Feb 2017)
- Indonesia Travel (Ministry of Tourism): Getting to Know Nasi Tempong
- 4stogo: Vegan & Vegetarian Options in Indonesia (travel guide)
- Katadata Databoks: As of December 31, 2021, 86.93% of Indonesia’s population is Muslim
