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フエの菜食料理 王朝の古都と寺院が育てた「ẩm thực chay」

2026年10月9日

古都フエと菜食

ベトナム中部の古都フエ(Huế)は、阮朝(1802〜1945年)の都が置かれた町で、仏教寺院が多いことでも知られます。Đại Đoàn Kết紙(2019年)によると、フエには大小400以上の寺院と230の念仏堂(niệm Phật đường)があるとされます。こうした背景から、菜食(ẩm thực chay)は寺院の中だけでなく、家庭や街の食堂にも根づいてきました。VnExpress(2012年)も、フエでは菜食が家庭に広く見られる習慣だと紹介しています。

ここで扱うのは、仏教と結びついた食文化としての菜食です。現代のヴィーガンとは成り立ちも考え方も異なるため、違いが気になる方は精進料理とヴィーガンの違いもあわせてご覧ください。

霧雨のなか、赤い柱と彩色された屋根を持つフエ王宮の午門
フエの王宮(帝都)の午門。 写真: Vyacheslav Argenberg / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

宮廷と寺院とのつながり

Đại Đoàn Kết紙によると、阮氏の領主の時代に仏教が重んじられ、遅くとも領主グエン・フック・チュー(在位1691〜1725年)の頃には、この地で菜食が行われていたとされます。菩薩戒を受けた貴族や王族が菜食をとり、素朴な食材だけでは物足りないとして、料理人が工夫を重ねたと説明されています。

皇帝が天を祭る南郊壇(đàn Nam Giao)には斎宮(Trai cung)が設けられ、祭祀の前に皇帝が菜食で身を慎んだ場所だったとされます(VnExpress、Đại Đoàn Kết)。同紙は、阮氏の領主時代のフエには約125種類の菜食料理があったとも伝えますが、この数字は一つの記事による紹介です。

寺院については、Tuoi Tre(2014年)が、Từ Hiếu、Từ Đàm、Hồng Ânなどの寺院の尼僧や信者が菜食づくりで知られると紹介しています。仏誕節や満月の日などには菜食の宴が用意され、ふだんの食事はもっと簡素だといいます。

代表的な料理と食材

フエの菜食でよく語られるのが、肉や魚の料理に見た目や風味を似せた「giả mặn(ザー・マン)」と呼ばれる料理です。VnExpressは、熟したバナナと冬瓜を使った「chả lụa」風、小麦グルテンとrau răm(ベトナムコリアンダー)で作る鶏肉風、きのこと春雨を巻く「chả ram」、若いジャックフルーツを使った料理などを例に挙げています。Tuoi Tre(2014年)は、緑豆のペーストに春雨ときのこを混ぜ、ライスペーパーで巻いて揚げる春巻を、肉や卵、えびの代わりの具として紹介しています。

Sài Gòn Giải Phóng紙(2026年9月)は、フエの古い寺での菜食の食事を取材しています。そこでは、きくらげ・にんじん・しいたけを具にしたbánh lọc、bánh bèo、bánh nậm、若いジャックフルーツの煮物、わらたけと煮た菜食のつくね風料理、胡麻のライスペーパーを添えた和え物、五色の茹で野菜、フエ産の蓮の実を使った甘味などが挙げられています。同紙は、使う油や調味料が控えめで、あっさりした味だと書いています。薬味には、大豆の発酵調味料のtươngやchaoを添える例もあります(Tuoi Tre)。

なお、bún bò Huếやbánh khoaiなどフエの名物は、通常は肉やえびを使います。今回確認した出典には、これらの菜食版や、魚醤の代わりに何を使うかについての詳しい記述がなかったため、ここでは触れていません。

フエのレ・ロイ通り11番地にある菜食レストラン「Bồ Đề」の夜の看板
フエのレ・ロイ通りにある菜食レストラン「Bồ Đề」の看板。 写真: David McKelvey from Brisbane, Australia / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

菜食の日と街の様子

菜食の頻度は人によって異なります。VnExpressは、一年中菜食をとる人のほか、旧暦の30日・1日・14日・15日の月4回とる人がいると書きます。Đại Đoàn Kết紙は、家庭では旧暦の1日と15日や祝祭日に菜食をとること、月2回を「nhị trai」、4回を「tứ trai」と呼ぶことを紹介しています。ただし、どの日を指すかは記事によって少し異なり、地域や家庭で違いがあるようです。旧暦の1日と15日については、ベトナムの旧暦1日・15日と菜食で詳しく解説しています。

VnExpressによると、こうした日には街頭で売られるbánh bèo、bánh nậm、bánh lọcなども菜食版になり、生きものを扱うcơm hến(シジミのご飯)などの店は休むことが多いそうです。2024年6月8〜9日にフエで開かれた菜食フェスティバルは、Báo Pháp Luậtによると、36のブースと45の参加団体が出展し、72品以上が並びました。寺院のほか、ホテルや飲食店も参加したとされます。

ベトナムの菜食の食堂「cơm chay」の基本は、cơm chayとは何かで紹介しています。フエの菜食は、王朝の歴史と寺院の暮らしが重なって育った食文化のひとつとして知られています。

トップ画像: ベトナム中部フエのティエンムー寺(天姥寺)。 写真: CEphoto, Uwe Aranas / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

出典