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インドの菜食文化 ― 宗教・調査数字・食品表示から読み解く


宗教と食のつながり
インドでは、何を食べるかが宗教や地域、家庭の習慣と結びついています。ただし「インドの人は皆菜食」という見方は正確ではありません。この記事では、出典で確認できる範囲で整理します。
ピュー・リサーチ・センター(Pew)の2021年の報告によると、ヒンドゥー教徒のうち宗教が生活で「とても大切」と答えた人の46%が菜食で、「それほど大切ではない」と答えた人では33%でした。信仰と食の実践に関わりがあることはうかがえますが、理由は人それぞれです。ジャイナ教は不殺生(アヒンサー)を最も重い徳とし、在家の食の禁忌もこの考えに基づくと、堀田和義氏の論文(2011年)は説明しています。シク教については、エレノア・ネスビット氏の論文(2015年)が、古い聖典や言い伝えには肉食を一貫して禁じる記述が見られないと指摘しており、菜食の位置づけは現代でも見方が分かれるようです。
数字で見る菜食:Pew調査(2021年)
Pewは2019年11月から2020年3月にかけて、インドの成人29,999人に対面で調査を行いました。それによると、自分は菜食だと答えた人は全体の39%です。特定の肉を避ける、特定の日は食べないといった制限まで含めると、何らかの形で肉を控える人は81%にのぼります。
宗教別の菜食の割合は、ジャイナ教徒92%、シク教徒59%、ヒンドゥー教徒44%、仏教徒25%、キリスト教徒10%、イスラム教徒8%でした。ヒンドゥー教徒を地域別に見ると、北部71%、中部61%、西部57%、南部30%、北東部19%、東部18%と大きな差があります。
読むときの注意点は二つあります。一つは、Pewが「菜食」の定義を回答者自身に委ねている点です。卵や魚の扱いなどは人によって違いうるため、調査ごとに対象や定義、方法が異なる他の数字とそのまま比べることはできません。もう一つは、ジャイナ教徒の回答者が109人と少なく、Pew自身も詳しい分析には足りないとしている点です。
食品包装の緑の印と茶色の印
インドでは、包装食品に菜食か非菜食かを示す印を付けることが定められています。インド食品安全基準局(FSSAI)の「食品安全基準(表示と陳列)規則2020」(2022年7月1日版の集成)によると、菜食は緑の丸を緑の枠の四角で囲んだ印、非菜食は茶色の三角を茶色の枠の四角で囲んだ印です。以前の2011年規則を説明するタミル・ナードゥ農業大学(TNAU)のページでは、どちらも丸(ドット)とされていました。「茶色の点」という説明を今も見かけますが、現行の規則文では茶色は三角です。
規則上、非菜食には動物の一部、昆虫、水生生物、卵、動物由来の産物が含まれ、乳、乳製品、蜂蜜、蜜蝋などは含まれません。卵だけが動物性の原料である場合は、印に加えて卵を使っている旨を任意で表示できます。ミネラルウォーター、酒類、液状の牛乳、粉乳、蜂蜜などは、この印の対象外です。

地域差とジャイナ教の食事観
先のPewの数字では、ヒンドゥー教徒の菜食は北部・中部・西部で多数派、南部・東部・北東部では少数派でした。州ごとの数字ではありません。グジャラート州の州都ガンディーナガルについて、インクレディブル・インディアは、ほとんどの食堂が菜食だと紹介しています。グジャラート料理の定食ターリーは、豆料理、ヨーグルト系のカレー、季節の野菜、パン、米、甘味などで構成され、甘味・辛味・酸味のバランスが特徴とされます。
南部では、Pewでヒンドゥー教徒の菜食は30%でした。一方、カルナータカ州ウドゥピには、クリシュナ寺院と僧院が巡礼者に出していた食事が起源とみられる菜食食堂の伝統があります。Outlook Indiaの記事(2022年)によると、伝統的な店の中には玉ねぎやにんにくを使わない店もあり、今では他の共同体の人々も「ウドゥピ」の名を使っています。同じ地域の中でも、実態は一様ではありません。
ジャイナ教の在家の基本的な禁忌について、堀田氏は、肉、酒、蜂蜜、5種類の植物、夜間の食事、濾過していない水を避ける点が繰り返し現れると整理しています。ただし文献によって型が分かれるとも述べています。Pewでは、玉ねぎやにんにくなどの根菜を食べないと答えた人がジャイナ教徒で67%、ヒンドゥー教徒で21%、シク教徒で18%でした。根菜を避ける実践はジャイナ教徒に限らないものの、割合は異なります。宗派や家庭による違いを比べられる出典は確認できなかったため、ここでは一括りにしません。
旅行者が知っておくとよい点
- 包装の緑の丸(菜食)と茶色の三角(非菜食)を確認する。
- この表示の区分では、卵は非菜食、乳製品は菜食に入ります。「菜食」はヴィーガンと同じ意味ではありません。違いについては精進料理とヴィーガンの違いの記事も参考にしてください。
- 「菜食」でも、玉ねぎやにんにくを使うか、ジャイナ教の教えに沿った内容かなどは店や人によって異なります。気になる点は食べる前に尋ねるのが確実です。
- 肉を控える日や期間を設ける人もいます(Pewの81%には特定の日の制限も含まれます)。宗教暦に沿った食の習慣は、スリランカのポヤデーの記事でも紹介しています。
- 地域や宗教、個人で食の考え方は大きく違うため、一つのイメージに当てはめず、相手の説明を尊重しましょう。
トップ画像: 丸い金属の皿に盛られたグジャラート風のターリー。 写真: Dvivektx / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons
出典
- Pew Research Center, Religion and Food (2021)
- Pew Research Center, Eight-in-ten Indians limit meat in their diets, and four-in-ten consider themselves vegetarian (2021)
- Pew Research Center, Religion in India: Tolerance and Segregation (2021)
- FSSAI, Food Safety and Standards (Labelling and Display) Regulations, 2020 (Compendium)
- TNAU Agritech Portal, Veg and non-veg symbols
- Incredible India, Gandhinagar
- Outlook India, Udupi: Food, Holy Food!
- Eleanor Nesbitt, Sikhs and vegetarianism (Religions of South Asia, 2015)
- 堀田和義「宗教的生命倫理に基づく食のタブー」(2011年、東京大学学術資産等アーカイブ)
